事業を始める際、「個人事業主」としてスタートするか、「法人」として設立するかは、多くの方が悩むポイントです。
本記事では、個人事業主と法人の違いを税理士の視点から分かりやすく解説いたします。
これから事業を始める方や法人成りを検討されている方の判断材料として、ぜひ参考にしてください。
事業形態の基本

個人事業主とは個人で事業を行う人を指します。
屋号(店名・事業所名)を掲げて事業を行うこともできますが、事業者本人が法律上の責任を負います

法人とは、法律上の人格を持つ組織を指します。
出資者・役員とは法的に別の存在として扱われ、法人自体が法律上の責任を負います。
法人の種類は複数ありますが、ここでは営利法人として主に利用されている形態を紹介します。
【株式会社】
出資者(株主)から資金を集め、その資金を用いて経営を行う組織です。
株式会社は出資者である株主と、経営者である取締役を分離していることが特徴です。
【合同会社】
法人は設立時に出資を受け、出資者(社員)は会社の持分(出資者としての地位)を取得します。
合同会社は基本的に出資者と経営者が一致します。
設立・開業手続き等の比較
個人事業主・株式会社・合同会社の開業手続きや信用度等の主な違いです。
項目 | 個人事業主 | 株式会社 | 合同会社 |
---|---|---|---|
開業手続 | 税務署へ届出書提出 | 法務局へ登記申請 | 法務局へ登記申請 |
設立費用 | なし | 20~30万円程度 | 6~15万円程度 |
最低資本金 | なし | 1円以上 | 1円以上 |
設立期間 | 即日 | 2週間~1ヶ月程度 | 2週間~1ヶ月程度 |
知名度 | 中 | 高 | 低 |
社会的信用度 | 低 | 高 | 中 |
法的責任範囲の違い
個人事業主と法人の法的な責任範囲の違いについて説明します。
個人事業主:無限責任
個人事業主は事業上生じた責任(債務)をすべて個人で負うこととなります。
経費の支払や借入金の返済は事業主本人が行うこととなり、事業が失敗して廃業したとしても、支払義務を無限に負う(無限責任)こととなります。
返済原資がない場合には、個人の資産(車や自宅等)を売却して返済に充てることもあります。
法人(株式会社・合同会社):有限責任
法人は事業上生じた責任(債務)を法人で負うこととなります。
法人と個人(出資者・取締役)は法律上別人格として扱われるため、事業上生じた経費や借入金を個人が支払う必要はありません。
事業が失敗して財産がない状態で法人を解散する場合には、会社設立時に支払った資本金が返金されなくなるため、出資者は出資額まで責任を負うこととなります(有限責任)。
法人は有限責任であるため、個人事業主よりも事業失敗時のリスクは低いです。
社会的信用度の違い
社会的信用度は個人事業主よりも法人の方が高いです。
個人事業主は「事業の実態が確認できない」や「事業が小規模のため安定しない」などの印象を受けます。
対して、法人を設立する場合には住所や資本金等を登記をして公開する必要があります。
事業実態や事業規模の一部を登記簿から客観的に確認することができるため、法人の方が社会的な信用を得やすくなります。
実際に個人事業主とは取引をしないというルールを設けている企業もあります。
取引先を増やしていく上では信用度の観点から法人の方が有利です。
資金管理面の違い
個人事業主
個人事業主は事業の利益=個人の所得となるため、事業資金と個人資金(生活費等)が預金口座やクレジットカード毎に分けて管理されていない場合でも、直ちに問題になることはありません。
ただし、預金口座やクレジットカードについて事業と生活費の使い分けをできていない状態だと、経理作業が手間になるため、基本的には事業専用の預金口座とクレジットカードを用意することをお勧めします。
なお、プライベートの支出を経費に計上することはNGですので注意しましょう。
法人
法人と出資者・役員は法律上別人格であるため、両者の資金を分けて管理する必要があります。
法人名義の預金口座やクレジットカードを作成して、経費等の支払をするようにしましょう。
会社資金をプライベートの支出に流用している場合は、追徴課税を受けたり融資を受けられなくなったりします。
税金の種類の違い
個人事業主
個人事業主は事業所得に対して所得税・住民税・事業税・消費税が課税されます。

・所得税 ・住民税
・事業税 ・消費税

・所得税 ・住民税
・事業税 ・消費税
法人
法人には法人税・住民税・事業税・消費税が課税されます。
さらに役員個人としては法人から支払を受けた役員報酬(給与所得)に対して所得税・住民税が課税されます。

・法人税
・法人住民税
・法人事業税
・消費税

・所得税
・住民税

・法人税 ・法人住民税
・法人事業税 ・消費税

・所得税 ・住民税
役員報酬について
法人を設立した場合、取締役は役員報酬の支払を受けます。
ただし、役員報酬は支払方法に制限が設けられているため注意が必要です。
- 役員報酬額の変更は期首から3ヶ月以内
- 年度途中での変更は原則認められない
- 原則として毎月同額を支給する
- 賞与を支給する場合は事前に届出が必要
税率の違い
個人事業主
所得税:超過累進税率(表参照)
住民税:10%
事業税:0~5%(業種による)
課税所得金額 | 税率 |
0円~195万円 | 5% |
195万円~330万円 | 10% |
330万円~695万円 | 20% |
695万円~900万円 | 23% |
900万円~1,800万円 | 33% |
1,800万円~4,000万円 | 40% |
4,000万円~ | 45% |
法人
法人に課税される法人税・法人住民税・法人事業税はそれぞれ税率や計算方法が異なりますが、税引前利益に対する税額の合計額の割合(実効税率)は概ね24%~35%となります(下記参考)。
※個々の法人の状況により同じ利益でも税額が異なる可能性がございますので参考程度にお考えください。
※消費税は考慮していません。
税引前利益 | 1,000,000円 | 3,000,000円 | 5,000,000円 | 8,000,000円 | 10,000,000円 |
税金合計 | 293,800円 | 741,600円 | 1,214,100円 | 1,959,800円 | 2,695,700円 |
実効税率 | 29.38% | 24.72% | 24.28% | 24.50% | 26.96% |
経理・会計の違い
個人事業主と法人では、経理や会計に関する実務にも違いがあります。
特に法人は決算や税務申告がより複雑になる傾向があり、専門的な知識が求められる場面も多くなります。
以下に、主な違いを表にまとめました。
項目 | 個人事業主 | 法人 |
申告期限 | 所得税:3月15日 消費税:3月31日 | 決算日の2ヶ月後 |
青色申告特別控除 | 10万円~65万円 | なし |
欠損金の繰越 | 最大3年間 | 最大10年間 |
記帳(入力)業務 | 自身で可能 | 自身で可能 |
申告書作成 | 難易度:低~高 事業規模によっては自身で作成可能 | 難易度:中~高 自身で作成するハードルは高い |
さいごに
個人事業主と法人には、それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらが適しているかは事業の規模や将来のビジョンによって異なります。
当事務所では、開業前のご相談から法人設立、税務顧問まで幅広くサポートしております。お気軽にお問い合わせください。