小規模企業共済はほんとにおトク?3ケースでシミュレーション【法人役員編】

小規模企業共済はほんとにおトク?3ケースでシミュレーション【法人役員編】

「小規模企業共済」は節税対策として多くの人から紹介されています。小規模企業共済に加入するか検討したいけど、実際にいくらお得になるのか数字が見えないまま悩んでいませんか?

 本記事では法人の代表取締役の方が小規模企業共済に「加入した場合・しなかった場合」の代表取締役個人の手取合計額の差額をシミュレーションします。

 制度そのものの仕組みは別記事にまとめていますので、基礎から確認したい方は下記解説記事から先に参照してください。
 また、個人事業主の方のシミュレーションは別記事にて検討しています。下記解説記事から参照してください。

目次

小規模企業共済の効果

 小規模企業共済は個人として加入・支払をする共済です。代表取締役個人が共済の支払をするため、節税効果は代表取締役個人に発生し、法人で節税効果を享受することはできません。
 個人の税金計算上は、共済支払額×税率分の節税効果を毎年享受することができ、かつ、退職金又は年金を受け取るときに大きな税制上の優遇を受けることができます。

シミュレーションの前提条件

今回シミュレーションするにあたり、下記のような条件を設定しました。

  • 代表取締役は単身世帯と想定
  • 協会けんぽに加入
  • 30歳で法人設立をし、小規模企業共済に加入
  • 65歳になる時点で廃業をし、共済金を受け取る
  • 30歳から65歳まで役員報酬金額は一定とする
  • 復興特別所得税は考慮しない
  • 小規模企業共済の掛金はMAX(月7万円、年間84万円)
  • 共済金の受け取り事由は廃業(共済金A)とし、一時金として受け取る
  • 基礎控除は所得税58万円、住民税は43万円とする

小規模企業共済の共済金については下記のサイトでシミュレーションをしました。
https://kyosai-web.smrj.go.jp/skyosai1/simulator/

シミュレーション

【ケース1】役員報酬500万円の場合

➀小規模企業共済非加入(掛金年間0円)の場合

(1万円未満四捨五入。以下同じ)

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬500万円500万円0円1億7,500万円
退職金(共済金)0円0円0円0円
支出金額(※1)107万円110万円0円3,908万円
手取り393万円390万円0円1億3,592万円

※1 支出金額には、社会保険料・小規模企業共済・所得税・住民税を含んでいます(以下同じ)

➁小規模企業共済加入(掛金84万円)の場合

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬500万円500万円0円1億7,500万円
退職金(共済金)0円0円3,536万円3,536万円
支出金額177万円180万円278万円6,621万円
手取り323万円320万円3,257万円1億4,415万円

➀と➁の差額(➁-➀)

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬0円0円0円0円
退職金(共済金)0円0円+3,536万円+3,536万円
支出金額+70万円+70万円+278万円+2,713万円
手取り▲70万円▲70万円+3,257万円+822万円

単年度:小規模企業共済に加入した場合、毎年約70万円の手取り減少
 共済掛金の支払額84万円に対して、税金が約14万円減少。
■退職金:共済掛金の支払額2,940万円に対して、共済金の受取額は約3,536万円となり、差引596万円の増加
 
■35年累計:年収500万円、掛金84万円で35年間事業を継続すると約822万円のおトク

【ケース2】役員報酬800万円の場合

➀小規模企業共済非加入(掛金年間0円)の場合

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬800万円800万円0円2億8,000万円
退職金(共済金)0円0円0円0円
支出金額203万円208万円0円7,357万円
手取り597万円592万円0円2億643万円

➁小規模企業共済加入(掛金84万円)の場合

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬800万円800万円0円2億8,000万円
退職金(共済金)0円0円3,536万円3,536万円
支出金額262万円266万円278万円9,661万円
手取り538万円534万円3,257万円2億1,875万円

➀と➁の差額(➁-➀)

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬0円0円0円0円
退職金(共済金)0円0円+3,536万円+3,536万円
支出金額+59万円+59万円+278万円+2,304万円
手取り▲59万円▲59万円+3,257万円+1,231万円

単年度:小規模企業共済に加入した場合、毎年約59万円の手取り減少
 共済掛金の支払額84万円に対して、税金が約25万円減少。
■退職金:共済掛金の支払額2,940万円に対して、共済金の受取額は約3,536万円となり、差引596万円の増加
 
■35年累計:年収800万円、掛金84万円で35年間事業を継続すると約1,231万円のおトク

【ケース3】粗利1,500万円・役員報酬1,200万円の場合

➀小規模企業共済非加入(掛金年間0円)の場合

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬1,200万円1,200万円0円4億2,000万円
退職金(共済金)0円0円0円0円
支出金額338万円344万円0円1億2,180万円
手取り862万円856万円0円2億9,820万円

➁小規模企業共済加入(掛金84万円)の場合

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬1,200万円1,2000円4億2,000万円
退職金(共済金)0円0円3,536万円3,536万円
支出金額394万円400万円278万円1億4,374万円
手取り806万円800万円3,257万円3億1,161万円

➀と➁の差額(➁-➀)

単年度退職金35年累計
30~39歳40~64歳
役員報酬0円0円0円0円
退職金(共済金)0円0円+3,536万円+3,536万円
支出金額+56万円+56万円+278万円+2,194万円
手取り▲56万円▲56万円+3,257万円+1,341万円

単年度:小規模企業共済に加入した場合、毎年約56万円の手取り減少
 共済掛金の支払額84万円に対して、税金が約28万円減少。
■退職金:共済掛金の支払額2,940万円に対して、共済金の受取額は約3,536万円となり、差引596万円の増加
 
■35年累計:年収1,200万円、掛金84万円で35年間事業を継続すると約1,341万円のおトク

シミュレーションまとめ

毎年の収入
(役員報酬)
35年累積手取り額差引
共済非加入共済加入(84万円)
500万円1億3,592万円1億4,415万円+822万円
800万円2億643万円2億1,875万円+1,231万円
1,200万円2億9,820万円3億1,161万円+1,341万円

 いずれの所得金額の場合でも、共済の掛金を84万円設定することで800万円以上の金銭的なメリットが得られます。
 小規模企業共済掛金の35年間分合計は2,940万円に対して、受け取ることができる共済金は約3,536万円となるため、共済制度の運用益だけで約596万円のおトクになります。さらに、小規模企業共済を支払うことにより毎年の所得税・住民税の減税を受けられ、かつ、共済金の受け取り時には退職金税制の優遇を受けることができ、トータルとして800万円以上のおトクとなっています。

小規模企業共済の加入検討のポイント

 小規模企業共済は加入することで大きなメリットを享受することが可能となります。しかし、小規模企業共済への加入を検討する際にはいくつか注意するポイントがございます。

■キャッシュフローに余裕があるか
 小規模企業共済は毎年掛金を支払う必要があります。掛金を変動させることはできますが、減額をしてしまうと運用される期間が減ってしまうため、将来受け取ることができる共済金が減少してしまいます。
 事業資金や生活費に悪影響を与えない範囲で掛金を設定しましょう。

■中途解約をしないか
 小規模企業共済は共済金等の受け取り事由が複数設定されています。
 ・共済金A:個人事業の廃業等
 ・共済金B:老齢給付(65歳以上かつ180ヶ月以上掛金支払)
 ・準共済金:法人成等
 ・解約手当金:任意解約・機構解約等
 解約手当金は掛金納付月数が240ヶ月(20年)未満の場合、元本割れをしてしまいます。なるべく中途解約をしないよう注意しましょう。

■他の制度(iDeCoやNISA他)と役割がかぶらないか
 小規模企業共済は個人事業主や会社役員の方の「退職金制度」として運営されているものです。
 小規模企業共済は元本保証有り・予定利率は約1%とされています。退職金制度として設けられているため、リスクを低く設定されています。
 リスクを負ってでも、投資として受け取れる金額を増やしたいという希望がある方は他の制度(iDeCoやNISA、その他民間商品)を検討しましょう。また、事業投資利益率が高い場合で事業投資の余地がまだある場合(砕けた表現として、「お金があればもっと事業で利益を出せる場合」)は資金を事業に投下する方がリターンが大きい可能性もあります。

他のシミュレーション結果

 上記以外の年収や掛金、年数でシミュレーションも行っています。
 簡便的ですが、非加入と加入の差額(上記シミュレーションの35年累計手取り額の比較)のまとめを画像にて掲載します。
 いずれも65歳になった時点で廃業し、共済金を受け取るという想定で試算しています。
 他の計算条件については上記のシミュレーションと同じです。

掛金月1万円の場合

掛金月3万円の場合

掛金月5万円の場合

掛金月7万円の場合

留意事項

  • 上記のシミュレーションは記事執筆時現在(2025年5月)の税制等に基づき計算しています。
  • 共済金は年金として受け取ることも可能です。この場合、シミュレーション結果が変わります。
  • 税務や社会保険は個別事情により、最適な選択肢が変わります。必ずご自身の責任において判断をお願いいたします。

まとめ

 シミュレーションの結果、長期間にわたって継続的に掛金を支出した場合にはほとんどの場合で「運用益+節税」の恩恵を受けることができます。小規模企業共済は20年未満で中途解約さえしなければ元本保証されるというとても低リスクな商品となっているため、是非ご自身の状況や意向に合わせて、活用をしてください。

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